トリプルデュエリスト!

※今回は完全に雑談回ですのでご了承ください。

少し前に『ゴーイングマイゥェイ』の管理人ロククが描いてくれたもの。
左から順に、私、ロクク、PINで描いてくれました。
スゲー!てか、私のイラスト格好良すぎるだろ!ありがとう!

トリプル

これ以下は、ロククが「この三人の遊戯王の物語考えたら面白そうだな…」と言っていたのでイラストのお礼に、稚拙な文章ながらに私が考えて書いてみたストーリーとなります。


※もう一度言いますが、今回は完全に雑談回ですのでご了承ください。


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 外は、まるで時が止まったかのような夜だった。人の気配も無く、市街地であろうこの場所には一つとして人工の灯りは存在していない。ただ、空に漂う満月だけが明るく足場を照らす。音は、風に交じって彼の足音が淡々と響くのみである。
 短い髪が風で揺れる。少し身震いすると、寒さに耐えかねてフードをかぶり黒縁眼鏡を直すと再び歩き出した。右肩にかけたバックパックが重そうに揺れる。
 商店街のような所を歩いているのだろう。もはや廃墟と化したゲームセンターや、沈黙した自動販売機が形をかろうじて保ったまま沈黙していた。仕事を出来なくなった電灯の何本かは地に伏せ、その周りには瓦礫が転がる。かつて建物があったのであろう四角い空き地には鉄くずの山が積まれ、見上げると高層ビルは漆黒のモノリスのようであった。
 ふと、見慣れた姿を見たような気がして足を止める。振り返ると、通り過ぎた建物のシャッターに何かが書いてあった。引き返して確認すると、そこには一匹の白い竜がスプレー缶で描かれていた。
 「かつては、ここも…」
 白い息が溶けるように消えて行く。冷えた外気が閉じた口の中に入り、気温の低さを実感する。両手を薄手のパーカーのポケットに入れ、親指を包むようにして握りこむ。冷たくなった指先が体温を取り戻すのを感じると、再び歩き出す。
 ふと、首元を冷たい風に吹かれて目を向ける。どうやら路地裏の方から吹いてきているようだ。真っ暗な道の先からは、低く唸る風が絶えず吹き続けていた。
 歩みは自然と路地裏へ向いた。狭い路地なので月の光は無く、暗さに慣れた瞳を頼りに、一歩一歩ゆっくりと進む。
 側壁に、随分と古い矢印の張り紙がバラバラな方向を指して何枚も張ってあったが、これの方向は無視して奥へと進む。右へ左へと、張り紙のある方へ進んでいく。
足元に気をつけながら、狭い路地をようやく抜けると広い空き地に出た。四方を建物に囲まれてはいたが、頭上からは月の光が十分に照らしていた。空き地の奥には柵があり、その向こうに潰れかけの工場のような建物があった。
 「ここは…」
 柵はすでに壊れ、柵の中心部に位置する扉を通らずとも中には入れるようになってしまっていた。かろうじて柵の役割を果たしそうに立てられている板でさえ、少し力を入れれば片手でも壊せそうなほどだ。その柵に触れないように通り、建物にたどり着く。近くで講堂を見上げると荒れようは凄まじかった。扉はあるべき場所に無く、中は吹きぬけとなっている。
 中へ入っていくと、トタン屋根の隙間から差し込む光がスポットライトのように建物内を照らしている。足元にはいくつかの雑草が生え、そこら中に瓦礫が散らばっていた。
 「フン、酷い有様だな」
 建物内の中心部には何か巨大な物に布がかぶせてあり、その姿を隠していた。高さはそれほどでもないがとても広い幅があり、建物内の六割以上をそれが埋めている。その正体不明の物に近づくと、ふと気付く。
 「まさか、これは」
 巨大な布を右手で力いっぱい引くと、布の上に溜まっていた大量の埃が霧散する。大量の埃に目を細めながらも力は緩めずに布を引き続ける。頃合いを見計らって布の離し、走り寄る。布が捲れたのはほんの三割程度だったが、それが何かを確認するには十分だった。
 「旧式の、デュエルフィールド!?」
 色は褪せ、錆び付いていてはいたが、それと判るだけの面影は残っていた。現代ではその存在を見た事のある者がどれだけいるだろうかと言われるほど、前時代の物だ。
 「…こんなものが、何故ここに」
 やはり目にするのは初めてで、驚きを隠せない。
 「来たか、『星屑使い』」
 奥から人の声が聞こえた。素早く声の方を向くと、何か小さいものが投げられていた。確認と同時に反射神経で後に飛ぶと、足元に飛苦無が突き立った。
 「誰だ!」
 声を張り上げて聞き返すと、旧式のデュエルフィールドの向こう側から人影が歩いてくる。月明かりの下にまで歩いて来ると、そいつの顔がはっきりと確認出来た。
 「…『奇術師』か」
 奇術師と呼ばれた男が月光の下で不敵に笑う。決して長くはない彼の赤い髪が風で少し揺れた。
 「貴様、何のつもりだ?」
 星屑使いの問いに、奇術師は答えず背を向ける。
 「待て!」
 叫び声を合図にしたようにして奇術師は超人的な脚力で、天井を支えている鉄骨に飛び乗る。
 「デュエルだ、星屑使い」
 「何だと?」
 いきなりの誘いに戸惑う。デュエルの誘いとあらば断るわけにはいかないが、今はそれ以上に重要な要件があった。
 「俺は、ロククに呼ばれて来たんだ。貴様の相手をしている暇は無い」
 「知ってるさ」
 「…どういうことだ」
 ここに来ることはロククと二人しか知らないはずだ。
 「デュエルをすれば判るさ」
 星屑使いを見下ろす奇術師の目には得体のしれない思惑が見受けられた。
 「…いいだろう、前回と同じく葬り去ってくれるわ!」
 思惑が何かは判らないが、デュエルの中で言葉を交わせば、何か情報を引き出せるかもしれない。どうせロククもまだ見つかってはいないのだ。
 バックパックを足元に下ろして中から一枚の板を取り出す。四角形とも平行四辺形とも言えぬ形のデュエルディスクを左腕に噛ませて固定する。ディスクからデッキを外し、手慣れた手つきで切っていく。
 奇術師も同じようにし、いつの間にか装着したディスクにデッキを固定する。スイッチを入れるとコンピュータの鈍い起動音とライフポイントを表示しディスクが『準備完了』を示す軽い電子音が順番に鳴る。
 「オーケー!さあ、デュエルだ!」
 わざわざ気分を逆撫でするような言い方で奇術師が申し込みの宣言をした。
 「デュエル!!先行は譲る、貴様のターンだ」
 星屑使いが受け、指を指すと奇術師は再び背を向けて飛び上がった。
 「何をしている!?…仕掛けておいて逃げるのか?」
 奇術師はトタン屋根に空いた穴を通って屋根の上へと飛び乗ると、満月を背にして星屑使いに視線で合図を送る。
 『ついて来い』と。
 「何のつもりだ!」
 「ドロー、オレは手札から《悪シノビ》を召喚。カードを二枚伏せてターンエンド」
 頭から爪先まで黒一色の忍者の姿をしたモンスターが奇術師の隣に出現し、続けて二枚の巨大なカードが足下に出現する。しかし実際に現れている訳では無く、デュエルディスクがカードを読み取り、発せられる光によって実際に現れたかの用に周囲の人間に見える仕組みだ。
 奇術師はまるで聞こえて無いかのように速やかにターンをプレイし終了すると、走り去ってしまった。その動きに合わせて彼の場のカードやモンスターも彼を追う。
 「…面白い」
 バックパックをそこに置いたまま走り、入って来た場所から外に出る。見上げると、トタン屋根から隣の建物に飛び移った奇術師の姿があった。
 広場へ出ると端まで走り、コンクリートで作られた建物の側面にかけ寄る。外壁に設置された鉄製の梯子を見つけると力いっぱい飛び上がる。元々高い所に梯子があることもあり、右手が下から二番目の鉄棒しか掴めない。少し高い位置で足が宙に揺れる。すぐに左手を一つ上にかけると次は右足を一番下にかけ、その後は順序道理に素早く駆け昇る。
 建物の屋上から見ると奇術師がゆっくりと遠くへ歩いて行くのを見つけた。追うようにして建物から隣の建物へと飛び移る。
 「この俺のターンを無視して去って行ったんだ、文句は言わせん。…ドロー!」
 少し高い建物から低い建物へ飛び移る。少し躊躇った後、約五メートルの高さを飛び降りて衝撃を吸収するように十分に膝を折る。さらに右手を付き、左手のディスクとカードが地に激突しないように気を使う。
 「手札からマジック、《サイクロン》発動!そしてフィールド魔法、《竜の渓谷》発動、手札の《ドラグニティ‐ファランクス》を捨て、《ドラグニティ‐ドゥクス》を手札に呼ぶ。そして召喚!」
 体制を立て直し、再び走り出す。遠くで歩いている奇術師の背が少しづつ近づく。止まってターンを行うのでは追い付けないと感じ、余裕を見て走りながらにターンを進める。
 《サイクロン》の効果で奇術師の足下の伏せカードが砕けると、急に立ち止まりこちらを向いた。
 「やっと来たか」
 怪しげな紅の瞳が月夜に煌めく。
 「《ドラグニティ‐ドゥクス》召喚時効果で《ドラグニティ‐ファランクス》を装備!そして《ドラグニティ‐ファランクス》を解除し特殊召喚!」
 鳥の鎧で身を固めた戦士との横に、褪せた金色の鎧と青い肉体の小竜が並ぶ。
 初手は、この手札で負ける気のしないほど自信の持てる手札だった。そこから繰り出される黄金の流れはこれまでいくつものデュエルで彼を支えてきたものだった。
 しかし気になるのは奇術師の一枚の伏せカード。今まで奇術師とは何度も闘ったが、その中のどのデュエルでも彼のトラップカードに痛い目を見せられて来た。多彩なトラップカードと奇抜な戦略から付いた『奇術師』の名は伊達ではない。
 奇術師の立つ建物へと飛び移り、互いに向かい立つ。
 「どうした、破壊されたのは《強制脱出装置》だ。まだ召喚を警戒するとは、臆病風にでも吹かれたか?」
 挑発的な態度で怒りがこみ上げるが、デュエルには邪魔なだけと割り切ってすぐに頭を冷やす。怒りにまかせたデュエルでの失敗はもう二度としないと決意している。
 「《ドラグニティ‐ファランクス》と《ドラグニティ‐ドゥクス》でシンクロ召喚、灼銅の竜騎士《ドラグニティナイト‐ガジャルグ》」
 一瞬の赤い閃光。その後、星屑使いの場に現れたのは一体のモンスター。チューナーと呼ばれる特殊なモンスターとそれ以外のモンスターで行う、シンクロと呼ばれる特殊な召喚方法だ。
 「召喚時はなんにもねーよ、続けなー」
 深紅の鎧に紺碧の肉体と翼を持つ竜の上で同色の鳥の戦士が槍を構える。奇術師はそれをしっかりと確認し、続きを促した。
 「《ドラグニティナイト‐ガジャルグ》の効果で《霞の谷の幼怪鳥》を手札に加え、そのまま墓地へ。そしてこのカードは手札から墓地へ送られた時、特殊召喚出来る。《霞の谷の幼怪鳥》特殊召喚!」
再び奇術師が走り出し、それを見て星屑使いも後を追う。建物から建物へと飛び、モンスターたちも持ち主に沿って飛んで行く。
 「行くぞ!《霞の谷の幼怪鳥》と《ドラグニティナイト‐ガジャルグ》でシンクロ召喚!」
 声と共に光の柱が二人を飲みこむ。柱から光の粒子が零れ、二人の足下の市街に雪のように降り注ぐ。
走り続ける二人が光の柱から駆け出でると、星屑使いを追って一匹の龍が現れる。
 「現れろ我が魂…閃洸の星龍、《スターダスト・ドラゴン》!!」
 鎧のような浅葱色の鱗に純白の肉体と翼を持つ龍が現れる。その星龍が翼をはためかせると、地球から見る彗星のごとくゆっくりとした速度で光の粒子が当たりに蒔かれた。
 「さあ、この一枚は何かなー?」
 「知ったことか!《スターダスト・ドラゴン》で《悪シノビ》を攻撃!」
 星龍の口から光の柱が忍者を狙って迸る。
 「トラップ《万能地雷グレイモヤ》発動!攻撃モンスターを破壊!さあ、効果を使いな!」
 光の柱が忍者に触れる直前で爆発し、柱を伝うように爆発が星龍の口へと向かう。
 「こざかしい…。《スターダスト・ドラゴン》の効果、自身をリリースして破壊効果を無効にし、破壊する!」
 星龍が光に包まれて消えると共に、爆発も煙のように消滅する。
 「さーすが、実体化したドラゴンは迫力あるな」
 「やつのカードは破壊した、しかし今の爆発は…」
 「さて、《悪シノビ》の効果、攻撃対象となった場合、オレは一枚ドローする」
 忍者が懐から巻物を出すと、それを奇術師のディスクに投げる。巻物がディスクに吸い込まれるように消えると、デッキの一番上の一枚がデッキから少しはみ出で来た。奇術師はそれを引き抜いて手札に加える。
 「オレはカードを二枚伏せ、ターンエンド。そして《スターダスト・ドラゴン》の効果!」
 二枚のカードが足下に伏せられた。その後、光の粒子がディスクから溢れ出すと、先ほどの星龍の形となった。
 「《スターダスト・ドラゴン》復活!」
 「いやー、流石。能力者のデュエルはスリル満点だな」
 「駄弁りは不要だ!デュエルを続けろ、俺の能力など、前回のデュエルで既に周知の事実だ」
 茶化す奇術師に怒りの視線を向ける。
 「『特殊召喚したレベル7以上のドラゴンの実体化』…いやー、凄まじい能力だ」
 「くどいぞ!」
 「まあまあ、そう怒らず。………やっと来たか」
 「何?」
 奇術師が走る速度を上げ、それに合わせてペースを上げる。
 すると、前から何者かがすぐ横を同じくらいのスピードで通り過ぎた。
 「《A・O・J クラウソラス》で攻撃」
 ふと聞こえた声を合図にして、機械の巨怪鳥が隣をすれ違う。その背には忘れられない顔の男がいた。その男を思い出し、星屑使いに戦慄が蘇る。自然と足は止まり、胸の奥から凄まじい量の感情が勢いよくこみ上げる。
 雲が月にかかり、星屑使いの顔に影をかけた。
 「トラップ《万能地雷グレイモヤ》発動!攻撃モンスターを破壊!」
 男は機械鳥の背に亀裂が入るのを見てすぐさま飛び降りる。飛び降りた男の背で機械鳥が轟音と共に爆発し、燃えた破片が市街地へと落ちて行く。
 「なんだと!?」
 男は着地するや否や、目の前で対峙している影を睨む。
 「貴様、この爆発…!」
 雲が切れ、影の顔が光にさらされる。
 「ロクク!!!」
 「チッ!そういうことか!」
 ロククと呼ばれた男が咄嗟に振り向く。星屑使いの右拳が固く握られ目の前まで迫っていた。ロククは自分の右手を自分の顔と迫る右拳の間に持って行き、拳を受け止める。
 「スターダスト!!」
 呼びかけに応じて星龍がロククに襲いかかる。星龍が鋭い爪を持つ左手を振り下ろす。
 「チッ!来い、トリッキー!!」
 マジシャンのような出で立ちのモンスターが、ロククを守るようにして両手を伸ばす。
 マジシャンが星龍の左手を受け止めると、凄まじい威力の衝撃が二人の体を突き抜けた。しかし少しづつマジシャンの両手が押さえつけられていく。
 「やはり、実体化させたモンスターとじゃ差があるか」
 「ロクク!今ここで倒す!」
 先ほどまでとは打って変わり、星屑使いは感情を爆発させていた。
 「それより、俺の後ろを見てみろよ」
 ロククがディスクをつけた左手で親指を立て、後ろを指す。決して冷静さを失ってはいない星屑使いが視線を移すと、そこにはさっきまで自分と闘っていたはずの奇術師の姿があった。
 「どういうことだ!?」
 「どうやら盛大に水を指してくれるらしい。とりあえず、まずはこの手を引いてもらおうか!」
 ロククが星屑使いの腹に力強く蹴りを入れる。
 「ぐっ」
 痛みに呻きながら後に吹っ飛び転がる。直ぐに起き上がるが、腹部を圧迫された苦しさに耐える間は喋ることは出来なさそうだ。星屑使いがロククを鋭く睨む。
 「説明はあるんだろうなぁ、ペテン師」
 「おい、デュエルしろよ。…って、まさかペテン師とはオレのことか?そりゃ随分と洒落た呼び方じゃねーか死体マニア様」
 「どうやらお前は、俺の怒りを買うのが目的らしいな」
 「ったく、説明?簡単な話じゃねーか」
 こちらの奇術師も、星屑使いと対峙していた奇術師同様に不敵に笑う。
 「『屍の主』ロククと『星屑使い』が互いの命を賭けて最後の決戦をするって聞いて、全力で水を差しに来たって訳だよ」
 喋り方とは裏腹に、どす黒い殺気のようなものを、星屑使いとロククは感じ取った。
 「ふざけるな!」
 何とか声が出るようになった星屑使いが声を上げる。
 「これは、俺達の戦いだ。誰にも邪魔はさせん!…それに、これはどういうことだ!答えろ、『奇術師』!」
 「どういうこと、ってーのは?」
 質問と同時に、敵意をむき出しにして、ロククと対峙していた奇術師を睨む二人の間を『星屑使いと対峙していたはずの奇術師』が通り過ぎた。
 奇術師が、同じ場所に二人立っていた。
 「俺達を邪魔する為にしちゃ、随分と凝ったコントセットだなァ、ペテン師!」
 ロククが二人の奇術師に向かって言う。
 「さしずめ、お前の能力で作りだした…トークンといったところかァ?」
 「ご名答だ、死体マニア様。そこで問題…オレの能力は何だろうな?」
 「トラップ…」
 星屑使いが呟く。
 「ん?」
 「ロクク、貴様の『能力で作りだした…トークン』という一言でピンと来た」
 ゆっくりと奇術師に向かって歩きながら、星屑使いが話す。
 「お前の能力は『トラップの効果の実体化』だ」
 「よく分かったな、星屑使い。一体いつから?」
 ロククと対峙した奇術師が『まいった』というポーズを取る。
 「フン、最初は今回登場したお前の脚力の異常さだ。あれはどう見ても人間技ではない」
 「ああー、あれは確かに自分でもやり過ぎたと思う」
 「次は《万能地雷グレイモヤ》だ。あの爆発は、ロククに撃ったのも俺に使ったのも本物の爆発だった」
 「正解だ。流石に今回は、オレも能力無しじゃまともに戦えないと思ってね」
その言葉を皮切りに、星屑使いと闘っていた奇術師は形を崩し、銀色の不透明な液体になるとそのまま足下に吸い込まれるように消えた。
 「《クローン複製》、…そう。星屑使い、お前の推理どうりだ」
 《クローン複製》のカードを見せ、得意げに奇術師が笑う。
 「ペテン師ィ、お前も俺達と同じだったとはな。今までは力を隠して闘っていたという訳か」
 「死体マニア様、あんただってもう能力隠す気無いくせに良く言うなあ」
指を指されてロククの表情が柔らかくなる。
 「まあなァ。今日が俺達、人工サイコデュエリストの失敗作『トラッシュ』の最終決戦なんだ、勿体ぶっちゃ楽しめないだろおう?」
 「死体マニア様、あんたの能力は『墓地から蘇生したモンスターの実体化』、…そーだろ?」
 「イャ、ハズレだ。正確には…」
 「正確には、『墓地から蘇生したモンスターと、それを利用したモンスターの実体化』だ」
 星屑使いの発言で、場の空気が変わる。
 「確かにそうだァ。よく気付いたな」
 「フン、貴様と何度闘ったと思っているんだ」
 幾度となく闘いを重ねた二人は、互いのデッキはおろか能力、現在の戦術の全てを現状で感じ合っていた。それは、奇術師も同じ。
 「さて、そろそろデュエルの再会といこうぜェ?」
 ロククが再び手札を構える。
 「ひっこんでいろ奇術師!これは俺達二人の闘い。邪魔が入ってはこれまでの意味が無い!」
 「そーそー、邪魔にならなきゃオレが来た意味が無いからな」
 奇術師が今までで一番、薄気味の悪い笑みを見せる。
 「オィオィ、まさかこんなペテン師のちっぽけな邪魔で俺達の決着に影響が出ると?ビビってんのか?」
 「ふざけるな!…良いだろう、三つ巴のバトルロワイヤルというわけか」
 星屑使いがディスク付きの左手で奇術師を指さす。
 「ペテン師、俺はカードを一枚伏せてエンドォ!貴様のターンだぁ。まずは自ら広げた大風呂敷でどんな闘いをするのか見せてもらおうかァ!」
 「そうこなくっちゃな、アンタらの後攻一ターン目が終了した時点でのオレのフィールドはクローンとも同じ。ここから進める!」
 奇術師がディスクを構えると忍者が背後に現れた。
 「ドロー!!オレは…」
 「この瞬間、トラップ《バスター・モード》!!」
 星屑使いのカードに星龍が吸い込まれ、眩い光が視界を奪う。
 「進化せよ!《スターダスト・ドラゴン/バスター》!!!」
 咆哮が衝撃波を生み、ロククと奇術師が身構える。光が収まると、琉璃紺の鎧に身を包んだ星龍の姿があった。羽ばたく翼からは眩い光が流星のように辺りにちりばめられる。
 「初手から揃えるとは、流石『星屑使い』の異名を取るだけのことはあるなァ」
 「奇術師!この星龍の前で、動けるのなら好きにするがいい!」
 「このターンは無理だわ、カードを二枚伏せてエンド」
 あまりにあっさりと奇術師はターンを終了した。星龍の効果無効の効果は強力だが全く動けなかったというのは今回が初めてだ。
 …何かある。
 そう思わざるを得なかった。
 「先は貰うぞ?ドロォー…《ジェネクス・コントローラー》召喚!さらに手札から《思い出のブランコ》発動、蘇れ《A・O・J クラウソラス》!」
 「死体マニア様も、よく動くねー」
 「《ジェネクス・コントローラー》と《A・O・J クラウソラス》でシンクロ召喚!現れろォ、鉄の鉄道兵器《レアル・ジェネクス・クロキシアン》!!!」
 漆黒の機関車を象った機械巨兵がロククの背に、足下からそびえ立つように現れる。
 「ロクク、何のつもりだ?」
 ロククの繰り出した《レアル・ジェネクス・クロキシアン》の効果は、相手フィールドで一番レベルの高いモンスターのコントロールを奪う効果。そして現状で一番レベルの高いモンスターは《スターダスト・ドラゴン/バスター》だ。しかし星龍が対象となった場合、効果によるカウンターは免れないだろう。星龍の効果は『効果の発動を無効にし破壊する』効果。コントロールを奪おうとすればたちまち破壊されてしまうだろう。
そんなことはロククも判っているはずだ。しかし鉄道兵器を場に出したということは何か策があるということに違いない。
 「俺はァ、鉄道兵器の効果発動!」
 …馬鹿な!みすみす返り討ちに会いに来ただと!?
 星屑使いは冷静な表情の下で、驚きを隠せずにはいられなかった。ロククに策があることは判った。そしてこの状況、俺達二人を相手に奇術師は二枚の伏せで迎え撃とうとしている。あの自信、二枚で迎え撃てるという自信からあの二枚は凶悪であることは明確だ。そして奇術師の場には《悪シノビ》。あのモンスターは攻撃をされると、例えその攻撃を受けなくてもコントローラーに一枚のドローを与えると言うカード。まともに突っ込めば伏せカードに妨害され、奇術師は一枚ドローと確実にこっちがディスアドバンテージを被るだろう。それを考慮するとロククもまずはあの伏せか《悪シノビ》を消去したいはず。
 しかし、これがロククの戦略だとしてもみすみす乗って良いものだろうか。もし戦略も何も無ければ攻撃力3000ものモンスターをみすみすロククに渡してしまうことになる。ロククとの最終決戦をしに来たのにこれでいいはずはない。それにこれから攻撃に転じようとしているロククの場は奇術師のトラップの嵐に会うと言っていい。そんなところに自らの切り札を譲るわけにはいかない。
 何より、今までに無い状況過ぎて理解が追い付かない。
 「星屑使い、どうするゥ?……チェーンはあるか?」
 「…チェーンは」
 こちらを見据えるロククの瞳を見る。
 「チェーンはない!」
 「何?気でも狂ったワケ??」
 奇術師があっけに取られる。
 「良く言った!俺はァ、自身の鉄道兵器にチェーンしてマジック発動ゥ、《サイクロン》!対象はァ、《龍の渓谷》!!」
 その瞬間、ロククの真意を理解する。
 「《スターダスト・ドラゴン/バスター》の効果発動!破壊効果を無効にして破壊!」
 星龍とロククの罠が光に包まれて消える。
 「一体何がしたかったんだよ」
 奇術師が下手なマジックでも見たようにつまらなさそうな顔をする。
 「おいおいペテン師、《レアル・ジェネクス・クロキシアン》は対象を取らない効果なんだぜェ?」
 「まさか!」
 「そう、この瞬間ロククから見て『相手フィールドで一番レベルの高いモンスター』はレベル2の《悪シノビ》!…ロクク、俺の星龍を眠らせたんだ。失敗は許さんぞ!」
 「効果によりィ、《悪シノビ》のコントロールを貰うぜェ」
 「くっ!」
 戦略は瓦解した。全ての戦略の起点が《悪シノビ》である奇術師のデッキでこれ以上は無いと言っていいほど痛烈なダメージを与えたに違いない。
 「ロクク、貴様との協力…次は無いぞ」
 「俺も、二度とご免だなァ…。…アタック!《悪シノビ》、《The トリッキー》で攻撃!!」
完璧な攻撃だった。二体がやられたとしても一体は通す。二体が通れば鉄道兵器での攻撃はしない。そして次は星屑使いのターン。相手の出方を見ながら戦略は完全に封じ、フィールドを空けることで次に繋ぐ良質な一ターンだった。
 奇術師が、不敵に笑うまでは。
 「貴様のライフ、大きく削らせてもらおゥ!」
 「それはどうかな!」
 奇術師がディスクに手を置いた
 『…まさか、二人同時にかかってくれるとはな』
 しっかりと、その言葉が2人の耳に届く
 「何!?」
 「…!」
 
 「トラップカード・オープン」

Materialize.69 『Cloudy end』
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第70話(最終話)『Psychic In Night』

 「トラップカード・オープン」
 奇術師の足下に伏せられていた巨大な二枚のカードのうち、一枚が起き上がり正体を現す。姿を見せたカードの絵の向こうから黒い球体が、放り投げられたように三人の間に落ちる。黒い球体は軽い破裂音と共に黒い煙の爆発を生んだ。
 「《トゥルース・リィンフォース》か…。フン、実体化させるとこうも大層な演出だとはな」
 黒い煙の中から黒一色に身を包んだ忍者が飛び出す。忍者は着地すると素早く宙に飛んで翻ると鮮やかに着地し、奇術師を攻撃しようとするロククのモンスター達の前に立ちはだかった。新たな敵の登場にモンスター達が動きを止め、コントローラーであるロククに視線を送って指示を求める。
 「ざーんねんでした、二体目の《悪シノビ》登場!」
 奇術師が得意気に口角を上げる。
 「さあ、死体マニア様。どーする?」
 ロククが最初に攻撃を行ったモンスターは、先ほど奇術師からコントロールを奪い得た《悪シノビ》。このまま攻撃しても相打ちには取れるが、そうすれば相手は一枚のドローを得る。アドバンテージ的にはこちらが一つ失う行動だ。しかしそうすれば残りの《The トリッキー》と《レアル・ジェネクス・クロキシアン》という攻撃力2000以上のモンスターで奇術師のライフを半分以下にすることが出来る。
 「チッ!…まあいい、どうせ俺のモンスターではないからな。盛大に命を散らせェ!……と言いたいところだが、ここはターンエンドだ」
 ロククがターン終了の宣言をするとモンスター達がロククの元まで戻って来る。
 「この瞬間、墓地より《スターダスト・ドラゴン/バスター》が舞い戻る」
 星屑使いのディスクから光の粒が嵐のように吹き出し、星龍の形を取る。
 「星屑使いィ、お前のターンだ」
 「言われなくても!俺のターン、ドロー」
 星屑使いは疑念を持っていた。今までのロククと言えば『肉を切らせて骨を断つ』や『死なばもろとも』と言う言葉が似合うようなプレイングを好み、毎ターン全力で相手のフィールド壊滅に乗り出すようなプレイスタイルだったはずだ。それが今回はどういう訳か随分と慎重に見える。確かにあの一枚の伏せカードは警戒せざるは得ないが今のターンの場合だと《悪シノビ》同士で相打ち、それが通れば次に《The トリッキー》の順番で様子を見ながら攻撃も出来たはずだ。しかし実際にロククの場は盤石のまま継続したのだから、未来の見える者以外はこのプレイングを現状で非難出来る者はいないだろう。
 ましてや、ロククは相手から奪ったモンスターに価値など見出さない。自分のデッキを信じている裏返しなのだろうか。真偽は定かではないが星屑使いには、今の行動はロククが『相手から奪ったモンスターに価値を見出した』ように見えた。
 「……バトルフェイズ」
 しかし、ロククの判断が正しいと仮定して考えた場合、あの伏せカードの正体が見えてくる。それは、《聖なるバリア‐ミラーフォース‐》。攻撃宣言と同時に、攻撃態勢のモンスターを全て破壊する最上級のトラップカードだ。奇術師のデッキに存在するカードの中で、今の状況でロククが最も痛烈に鉄を踏まされるならば、このカードを置いて他には無い。
 「その伏せカード、確かめさせてもらうぞ!攻撃!」
 星龍の口から雷にも似た閃光が放たれ、奇術師の忍者を襲う。
 「トラップカード・オープン」
 奇術師の声と同時に閃光が何かに衝突したように裂け、空間を伝うように忍者を避けて奇術師の後へと流れる。流れた閃光は奇術師の背後の市街で二、三の光を放って炸裂。荒廃した街の建物のいくつかが新しく瓦礫の山を築いた。
 「やっぱりなァ」
 ロククが奇術師に向かって言い放つ。
 「《聖なるバリア‐ミラーフォース‐》発動。さあ、どうする星屑使い」
 閃光を受け切った透明なバリアが薄く光ると激しく割れ、破片が星屑使いとロククのフィールドを襲う。
 「選択の余地は無い!スターダストの効果発動!」
 間髪入れずに星屑使いが言い返すと、星龍が光を放って破片と共に姿を消す。実体化しているトラップカードだ、破片の一つでどれほどの怪我を負うか想像もつかない。
 「《悪シノビ》の効果で一枚ドローする」
 忍者が懐から巻物を出し、奇術師のディスクに投げ、消える。ディスクが反応してデッキの一番上のカードがはみ出てきた。それを、奇術師が引き抜いて手札に加える。
 「ターンエンド。蘇れ!」
 星屑使いのディスクから放たれる激しい閃光が星龍の姿となって、星屑使いの元に戻る。
 「礼は言わないぜェ?」
 「フン」
 ロククの声に、星屑使いは『当たり前だ』と言わんばかりに不躾に踵を返した。
 「ドロー、カードを二枚伏せる」
 奇術師のターン。このターンも今までと変わりない動きだ。
 「《カードカ―・D》召喚」
 奇術師の場に青色の、とても薄い車のようなモンスターが現れる。
 「そして、リリースすることでカードを二枚ドローする」
車が、薄さに似合わぬ重いエンジン音を響かせ走り出す。三人の間をぐるりと周ると、車は奇術師のディスクに飛び込んだ。奇術師は、忍者の時と同様にはみ出して来た二枚のカードを引き抜くと手札に加える。
 「さ、死体マニア様のターンだ」
 先ほどの車のモンスターは召喚したターンにリリースすると、二枚の手札を与え、エンドフェイズになる効果を持つ。しかし、それはバトルする前でなくてはならないので奇術師は先にカードを伏せたのだ。
 「俺のターン!ドロー!」
 ロククが勢いよくカードを引く。
 「俺はァ、《The トリッキー》をリリースしてアドバンスド召喚!《偉大魔獣ガーゼット》!!」
 ロククの場の魔術師のようなモンスターが消え、骨の様な銀朱の鎧と紺碧の肉体、鶸色の体毛を持つ、人型の力強そうな悪魔の様なモンスターが現れた。腕を組み、制止している様からは見た目とは違って高貴な印象が見て取れる。
 「ガーゼットかー、死体マニア様らしいモンスターだ」
 「ガーゼットの効果はァ、リリースしたモンスターの攻撃力を倍にして自らの攻撃力に変えるゥ!よってェ、攻撃力は4000!」
 魔獣が両手を広げて咆哮する。決して狭くは無いこの町の全域にこの音が届くだろう。咆哮しながら魔獣は巨大化していき、ロククをゆうに五倍は越えたであろう大きさになると巨大化が止まった。
 「バトルフェイズ、ガーゼットの攻撃はァ…そこのスターダストだァ!」
 魔獣が高い位置から拳を星龍に向けて叩きつける。
 「チッ」
 星屑使いが舌打ちをし、身構える。
 「これはバトルロワイヤル!そしてェ、お前とは宿敵!ここで消さない手は無いよなァ!」
 魔獣の効果は発動では無い為、星龍の『効果の発動を無効にし破壊する』効果の処理範疇では無い。ロククはこの方法でまずは自分の行動を制限される恐れのある、星龍を葬ろうという算段だ。この星龍に今まで何度も邪魔をされてきたロククにとって星龍の攻略はそのまま、星屑使いとのデュエルの攻略を意味する。そして今、《偉大魔獣ガーゼット》は星龍攻略の切り札の一枚としてとて最高の力を奮った。
 「トラップカード・オープン」
 それは意外な声だった。トラップを発動したのは星屑使いでは無く、奇術師だった。魔獣の拳の向かう先に、不思議な模様の筒が現れる
 「…これはァ、《魔法の筒》!?」
 ロククが驚愕の表情を表す。
 「今はバトルロワイヤルだぜ、死体マニア様?さあ、油断の代償は命の半分だ!」
 「くゥ…!!」
 魔獣の腕が拳ごと筒に吸い込まれる。すると不思議な模様の筒がもう一つ、ロククの目の前に出現した。ロククの前に出現した筒から、先ほどもう一方の筒に吸い込まれたはずの魔獣の拳が現れ、ロククを襲った。防御姿勢を取ったロククの体が後に押され、力に耐えきれず後に倒れる。ロククのディスクのライフポイントをカウントする数値が8000から高速で減って行き、4000を示して止まる。
 「っ……!!」
 起き上がりながら痛みを抑える声が漏れた。蘇生したモンスターを使用してはいないため実体化こそしていないものの、元々このデュエルディスクには開発者の意向でそういう機能が付いている。『バーチャルソリッドフィール』と呼ばれるそれはディスクを装着してデュエルを行った場合に発生し、モンスターやカードの効果によるダメージを体感できるというシステムだ。
 しかし、今回のロククの反応はその比では無かった。
 「一体どうした、ロクク!?」
 星屑使いがロククに向かって問う。
 「なるほどなァ。…元々は俺のモンスターの攻撃でも、お前のトラップを介した為に実体化したという訳か」
 ロククの言葉を聞いて奇術師が驚く。
 「せーかい。…しかし思ったよりダメージ無いみたいだな」
 奇術師は、トラップカードの効果を実体化することが出来る。しかしそれは直接的なもので、こちらのカードに関与出来るということは考えもしなかった。ロククの反応にも合点がいく。
 「いやァ、十分受けてるさ。まさかここまでとはなァ…」
 「隠してたわけじゃないぜ、気付かないと思わなかっただけだ」
 奇術師がロククを見据え、目を細める。
 「別にィ、恨んでるわけじゃない。……だが、行くぞ!クロキシアンで攻撃!」
 漆黒の鉄道兵器が黒煙を上げて唸る。各部位に存在する多数のライトが発光し、暗さに慣れた三人の視界を埋める。鉄道巨兵が発光を続けたまま、足音を響かせて奇術師へと向かう。鉄道兵器の身の丈ほどもある巨大な腕が、忍者の前で振り上げられる。
 「潰れろ、ペテン師」
 ロククが静かに命令すると鉄道兵器は、勢いよく腕を振り下ろした。
 「馬鹿め、トラップカード・オープン!《聖なるバリア‐ミラーフォース‐》!!」
鉄道兵器の腕がバリアに阻まれ止まる。鉄道兵器がより一層強く黒煙を吹き上げながら音を響かせる。
 「二枚目の、ミラーフォースだとォ!?」
 「馬鹿な!奴はミラーフォースを一枚しか持っていなかったはずだ!」
 ロククと星屑使いが奇術師に見入る。
 「…攻撃表示モンスターを全て破壊する」
 奇術師が冷やかに言い放つ。星屑使いは驚きはしたものの、直ぐに冷静に対処しようと構えた。星龍の効果でこのバリアを無効にすることは確かに出来る。そして、無効にしなければこのまま自身の星龍も破壊されてしまう。しかし今回は、星龍さえ犠牲にすれば次のターンは自分のターン。そうなれば伏せカードの存在しない奇術師を自分のターンで躊躇うことなく攻撃出来る上に、星龍が純粋に追い付かない火力を持つモンスターが存在するロククの場を消しさることが出来るのだ。
 「どーする、星屑使い」
 奇術師は疑問に思っていた。それは、星屑使いの伏せカード。最初のターンで二枚伏せ、一枚は《バスター・モード》だった。しかしもう一枚の、伏せられているカードが何なのか判らないでいた。《バスター・モード》の他に、星屑使いの使用率の高いトラップは《神の警告》。ライフポイント2000と引き換えに、モンスターを召喚及び特殊召喚しようとする行動を阻止する強力なトラップだ。しかしそれならば何故、発動しないのだろうか。あの伏せカードが《神の警告》ならばロククのモンスター、《偉大魔獣ガーゼット》の召喚を潰していたはずだ。いや、最初のターンから伏せていたのだからもっと前、ロククと共闘したターンに発動した奇術師の《トゥルース・リィンフォース》に発動すれば自分のターンと連続して多大なダメージを奇術師に与えれたはずだ。最悪、星屑使いのターンで奇術師は負けていたかもしれない。
 《神の警告》でないなら攻撃反応系だろうか。いや、それならば《偉大魔獣ガーゼット》の時に発動していたはずだ。あのタイミングは、星屑使いに動く素振りが見られなかったから奇術師はトラップを発動したのだ。
 …まさかそれを読んで動かなかったのか?
 いやその可能性はない、と考えを改める。流石にこれでも相手がトラップを発動するかどうかくらいの見分けは付く。そして、この三人でバトルロワイヤルをするのは初めてだ。今まで散々邪魔をし、敵対してきたこの奇術師が星屑使いを助けるなどと誰の想像もつかないはずだ。そんな中で何もしないというのは自らの切り札を捨てるも同じ。ましてや星屑使いは星龍を『我が魂』として愛する男、攻撃反応型のトラップがあると言うのであれば使わない訳が無い。
 では発動できない可能性、つまりあの伏せカードがブラフの可能性は無いか。もしそうだとすれば全てに合点が行く。最初のターンからブラフを伏せたのは奇術師がエンドフェイズにサイクロンを撃ち、星屑使いの《バスター・モード》が破壊される可能性を低める為だろう。
 しかし、そうすると一つの疑問が浮上する。前の星屑使いのターンだ。ドロー後すぐにバトルフェイズに入り、結局バトル後もモンスターを召喚することは無かった。フィールドに張られた星屑使いの《龍の渓谷》は、手札一枚と引き換えにデッキから『ドラグニティ』の名を持つ下級モンスターを手札に加える効果を持つ。手札に使えないカードしかなくとも、効果を使えば《ドラグニティ‐ドゥクス》を呼べ、後攻一ターン目で見せたモンスターの連携から、強力なドラゴンを呼べるはずだ。しかしそのチャンスを捨て、星龍一匹に場を預けた。
 確かに《スターダスト・ドラゴン/バスター》は強力な効果を持つが、その効果を使用するためには自身をリリースしなければならない。つまり、一度効果を使うとそのターンが終わるまで自分の場を離れてしまう。もし伏せカードがブラフならば、星龍一体に場を預けるということは最悪の場合、敵の総攻撃をまともに受ける覚悟でなければならない。そんなことは星屑使いも心得ているはずであり、そしてロククのデッキは先ほどのように侮り難い。もしブラフだとしたらなぜ先程のターン、追加でカードを伏せなかったのだろうか。
 …伏せれなかった?…いや、伏せたくなかったのではないだろうか。
 手札に貯めておきたいカードがあるのではないか。しかし、星屑使いのデッキが、複数の手札から展開するコンボを扱ったデッキでは無いことはコンセプトからも判る。『ドラグニティ』は特定のモンスターを墓地から展開し、星屑使いはそこから『/バスター』というシンクロモンスターの進化形態の一つに繋げる戦略だ。となると、伏せたくない、使いたくないという発想が来る理由は一つだ。それは、奇術師かロクク、どちらかの手札を予想しての選択ということ。星屑使いと闘った回数はロククよりも奇術師の方が少ないが、それでも奇術師の闘い方は理解し易い。《悪シノビ》を立ててトラップカードで守るといういかにも単純な戦術だ。そして今回は奇術師の能力『トラップカードの効果の実体化』が明かされての初めてのデュエルになる。恐らく奇術師の能力と闘い方から考えた星屑使いの目はトラップに向いているだろう。そしてそうならば奇術師の手札のトラップを読んできているということ。しかしトラップは一度伏せなければ発動は出来ない。手札から連発できる魔法と違い、ターン中一度しか効果を無効に出来ない星龍も執拗に恐れる必要はそこまで無い。
 …魔法?
 星屑使いが警戒しているのが魔法だとすれば、それはロククの手札だ。星屑使いの『召喚したくない』『伏せたくない』という感情が予想しているのは恐らくフィールドの完全消滅。そして連続して発動して場のカードを消しさる最悪の組み合わせといえば《大嵐》と《ブラック・ホール》。普通はカウンターを恐れて《大嵐》から使うが、ロククからしてみれば厄介なのは奇術師の伏せカードと星屑使いの《龍の渓谷》、そして今、奇術師が思いを巡らすあの伏せカード。あれを破壊したいのであれば《ブラック・ホール》を囮に星龍の効果を使わせ、《大嵐》で大量のカードを葬る。その後、自身の場を整えて一斉に仕掛けるつもりという可能性がある。しかしそれならば星龍の効果を発動せず、あえて《ブラック・ホール》で破壊させ、星龍のもう一つの効果『破壊された時に《スターダスト・ドラゴン》を復活させる』という効果で復活し《大嵐》を迎え撃つことが出来たのではないか。
いや、ロククの場がそれをさせないのだ。ロククの場には《レアル・ジェネクス・クロキシアン》がいる。しかし これだけなら《ブラック・ホール》の発動後、ロククの場からは全てのモンスターは消え、脅威たるものは存在しなくなる。問題はその後の話だ、ロククの場の伏せカード、今まで発動していない所を見ると、あれは《リビングデッドの呼び声》の様なモンスター復活のトラップ。もしそうならば復活するのは攻撃力の一番高い《レアル・ジェネクス・クロキシアン》だろう。そして《レアル・ジェネクス・クロキシアン》の攻撃力は《スターダスト・ドラゴン》と同じ2500だ。そうなればロククは迷うことなく相打ちにする、そうすれば無効にされること無く安全に《大嵐》を撃てるからだ。つまり《スターダスト・ドラゴン/バスター》は、もし《ブラック・ホール》が発動した場合は《レアル・ジェネクス・クロキシアン》の蘇生を警戒するが故、逆に場を離れなければならないのだ。
 ということは星屑使いの伏せがブラフならば、今が《レアル・ジェネクス・クロキシアン》を倒す絶好の機会。それも、自分から攻撃し『何かあるのか?』とロククに勘ぐられる心配もない。
 逆に言うと、このトラップを無効にしないということは、星屑使いのあの伏せカードはブラフ。そして伏せたくなくて手札に温存したということは、あの手札は《ブラック・ホール》と《大嵐》を無効に出来る《神の宣告》でもなく、大量破壊を無効にし星龍を呼び出せる《スターライト・ロード》でもない。つまり、《神の警告》か《聖なるバリア‐ミラーフォース‐》!
 「発動………しない!」
 …ブラフッ!!
 ロククも奇術師とほぼ同じ事を考えていた。ただ違ったのは読まれているのが自分の手札ではなく、奇術師の手札だと予想していたということだ。ロククも今の、星屑使いの発言で奇術師と同じ発想に至った。
 星屑使いの言葉と同時にバリアが砕け、鉄道巨兵の重装甲を難なく貫き破壊する。破片は減速すること無くロククと星屑使いのフィールドを襲う。実体化している破片の威力は凄まじく、三人の立つ建物の屋上を地に付いた破片が抉る。飛んできた破片にロククの場に残った二体のモンスターも破壊される。星屑使いの場を襲った破片に対して星屑使いは体の右側面を向け、少しでも破片の当たる面積を小さくする。
 「許せ、スターダスト」
 するとそれに答えるように、星龍が翼を広げ星屑使いを守るように飛び来る破片と星屑使いとの間に立ち塞がった。
 「スターダスト…。…《スターダスト・ドラゴン/バスター》の破壊時効果により《スターダスト・ドラゴン》を復活させる」
 星龍が眩い光を放ち、今まで星龍の纏っていた琉璃紺の鎧が弾けるように離れると光となり、今だ絶えない無数のバリアの破片を撃ち落としていく。ほんの数秒で破片の嵐は治まった。
 「まーだだ」
 奇術師の表情が意地悪く歪む。
 「どういうことだ?」
 星屑使いが怪訝そうな声で聞き返す。バリアの破壊効果は全て効果処理が終わっている。星龍も元の姿へ戻り、ロククの場のモンスターも全て消滅した。
 …いや。
 「そー、まだこいつが残っている」
 星屑使いの全てを理解した表情を見て、奇術師は満足そうに自分の場の少し先の鉄の塊を指す。ロククの、鉄道兵器のなれの果てがそこにはあった。鉄道兵器は墓地から蘇生した《ジェネクス・コントローラー》を使ってシンクロ召喚されたモンスター。ロククの能力『墓地から蘇生したモンスター及び、それを使用して生み出したモンスターの実体化』により現実に姿を現したそれはディスクにより映し出されている訳ではなく今だそこに存在する。そして、これからが破壊の処理。
 「外道が…!」
 星屑使いが憤る。
 「ドーン」
 子どもがゲームのミサイルを撃つように、無垢な声と見下したような濁った眼で合図を口にする。鉄道兵器だった鉄の塊が爆発し、破片の全てがロククへと向かう。
 「チッ…!」
 ロククが右手で顔を隠し、致命傷を避けようとする。しかし唯でさえ実体化した攻撃力4000もの魔獣の攻撃を受けているのだ。これを受けて無事で済む保証は無い。『トラッシュ』と呼ばれる人工サイコデュエリストのデュエルには常に死の危険が伴う。
 サイコデュエリストとは特殊な能力を秘めて生まれる人間の総称だ。その力が目覚める年齢は人それぞれだがその全てが『モンスター及びカードの効果を実体化する』という能力を持ち、実体化したカードは人間へは勿論、周りの物体へも破壊や消滅といった効果をもたらす。
 「クソッ」
 ロククの視界を光が支配する。光の中でロククは走馬灯にも似た感覚で今朝の話を思い出す。『トラッシュ』の女性、ハコが話してくれた『トラッシュ』のことと、命を落とす前に残した「今夜で全ての決着が付く」という言葉。
 かつて、ディヴァインという男がサイコデュリストの理想郷を目指し『アルカディアムーブメント』という組織を作り上げた。彼の野望は、かつて自分を異端者と罵った世界への復讐。サイコデュエリストを兵士として育て、世界を自分の物とすることだった。しかし突如、総帥であるディヴァインは姿を消す。自然消滅するかに思われた『アルカディアムーブメント』だが、彼の意思を継ぐ物が現れた。
 ディヴァインの意思を継いだその科学者が研究したのは『サイコデュエリストの力の強化』。よりモンスターの力を引き出せるように、サイコデュエリストを実験台として研究を続けた。しかし研究は上手くいかず『アルカディアムーブメント』の要するサイコデュエリストの数はみるみる減って行った。組織のサイコデュエリストを全て使い果たした彼が次に考えたのは『人工的なサイコデュエリスト生成』であった。しかし人造生命の創造には時間がかかり過ぎる。悩んだ末、彼が行ったのは親のいない孤児を施設から買い取って実験に使うことだった。しかしついに実験は成功しなかった。彼が生み出したのは失敗作として『トラッシュ』と名付けた十三人の人工サイコデュエリストの少年少女と、彼も覚えてはいない程おびただしい数の子供たちの遺体だった。生み出された少年少女たちでさえ、サイコデュエリストの実体化能力を断片的にしか持っていなかった。しかし、断片的だがその破壊力は普通のサイコデュエリストの比ではなかった。一度発動すれば制御は効かず、施設のあらゆる器具を破壊し尽くした。
 最も年上だったハコが十五歳を迎えた夜のことだった。『トラッシュ』達が一斉に反旗を翻した。研究所の壊滅に一時間はかからなかった。『トラッシュ』達は一部を除いて散り散りになり、各々の人生を生きた。能力を隠して生きる者、能力を奮って生きる者。
 しかし、強力な力を持った代わりに得た代償は大きかった。幾度もの人体実験、脳波への介入、様々な薬物の投入により体は弱体化し、寿命も通常の人間より極端に短い。身体能力による人間との誤差はそこまで無いが、肉体の治癒速度は桁違いに遅く、少しの出血でも死の危険が付き纏う。今まで出会った中で唯一、その研究者の助手として研究に関与していたハコだけが全員の寿命を正確に知っていた。ハコは決して他の『トラッシュ』の寿命について口を割らなかった。ロククはハコのデュエルの申し出を、ロクク自身の寿命を教えてもらうことを条件に受けた。
 「出来ることなら、もう一度…いいえ、ずっとデュエルをしていたかった。こんなに楽しいものだって知らなかった」
 ハコの言葉が頭から離れない。ロククの攻撃がハコのライフポイントを0にすると、ハコは穏やかな顔で目を閉じた。
 ロククはデュエルを楽しいものだと感じた事が無かった。デュエル以外に生きて行く方法を知らないからだ。デュエルは生きるための行為だ。呼吸であり、食事であり、睡眠であった。デュエルが強ければ自分に牙を向く物は自然に減り、体の弱い自分でも出来る限り長く生きれる。『あたりまえのこと』それが楽しいとはどういうことなのだろうか。
 「スターダスト!!!」
 星屑使いの声で我に返る。星龍の口から放たれた光の柱が、ロククの眼前に落ちる。柱はロククに迫る破片を撃ち落とし、それと同時にロククに向かう破片を阻害する盾となった。
 「…星屑使い」
 ロククが構えを解き、星屑使いに向く。
 「何のつもりだ」
 ロククには理解出来なかった。星屑使いにしてみれば、自分は憎むべき宿敵。倒す理由こそ山ほどあれ、庇う理由など微塵も思い当たらない。
 「フン、こんなところで倒れてもらってはつまらんからな」
 ロククに視線を向けず、星屑使いは答えた。
 「おー、これは意外な光景」
 奇術師が関心する。実際、この二人の協力など、想像できるはずもない。出会えば殺意を向きだして向かっていく星屑使い。星屑使いの大切な友人を奪い続けたロクク。互いが互いの存在を認識した瞬間に命の奪い合いを繰り返してきた二人の内、一方がもう一方を助ける絵などありえなかった。
 「つまらない…?」
 「二度は言わんぞ」
 「つまらない…。…今は、…お前は、デュエルが楽しいのか?」
 ロククの問いに対して、星屑使いはようやくロククの方を向くと不思議そうな顔をする。
 「フン、無駄話をしたがるとは貴様らしくないな。俺が自分の好まんことをやるような奴に見えるのか」
 「そうか…。ペテン師、お前もそうなのか?」
 「さーあ」
 「スターダスト!」
 軽く答えた奇術師の横を光の柱が抜け、真後ろの建物を打ち崩す。
 「答えろ。まあ、聞かずとも判るがな」
 「おー怖い怖い。…そりゃ楽しいさ、何たって俺達『トラッシュ』の中の生き残りの最終決戦に自分もいるんだからな!これ以上ない大舞台さ!」
 奇術師が両手を広げて声を張る。
 「さー、慣れ合いの御託はこの辺りにしてさっさと進めろよ死体マニア様」
 「俺は、ターンを…」
 「おっとー!その前に、《悪シノビ》の効果でカードをドロー!」
 奇術師がデッキからカードを引き抜いて手札に加える。
 「…。カードを一枚伏せてからターン、……エンドだァ!」
 ロククはそう言って、ターンを終えた。
 「ドロー。…奇術師、俺の獲物に手を出すとどうなるか思い知らせてくれるわ!」
 「このターンは、ダメージを受けるしか無さそうだな」
 「手札から《バスター・ビースト》を捨て、《龍の渓谷》の効果でデッキから《ドラグニティ‐ドゥクス》を手札に。そして召喚!」
 後攻一ターン目と同じ流れ。シンクロへの一方通行のパターン。
 「《ドラグニティ‐ドゥクス》の効果で《ドラグニティ‐ファランクス》を墓地より装備し、続けて解除!シンクロ召喚!」
 一瞬の閃光の後、一体のモンスターが現れる。白銀の鎧と菫色の肉体を持つ飛竜の上で同色の鳥の戦士が槍を構えた。
 「疾風の《ドラグニティナイト‐ゲイボルグ》!」
 「まーた、嫌なのが来たよ」
 「バトルフェイズ!《ドラグニティナイト‐ゲイボルグ》で《悪シノビ》を攻撃!」
 「《悪シノビ》の効果で一枚ドロー!」
 …!
 ドローカードを確認した瞬間、奇術師の表情が変わる。
 「このダメージステップ!《ドラグニティナイト‐ゲイボルグ》の効果!墓地の《ドラグニティ‐ドゥクス》を除外しその攻撃力を自身に加算する!」
 竜騎士が渦を描くように忍者に向かい、その横を通り過ぎる。時間が遅れて忍者の体が腰の辺りでで二分されると、煙となってその体が消滅した。
 「ぐっ……!」
 奇術師が痛みに呻く。
 「《ドラグニティナイト‐ゲイボルグ》はレベル6、実体化こそしていないものフィールは相当なようだな。だが…次はさらにその痛みの上をゆくぞ!」
 星龍が咆哮する。
 「スターダストの攻撃!!」
 星龍の口から光の柱が奇術師目がけて炸裂する。奇術師に直撃した光の柱は辺りに光を四散させ、光で奇術師の姿を確認出来なくなった。柱の炸裂により吹き荒れる風の音に混じり、激痛で叫ぶ奇術師の悲鳴が辺りに響く。奇術師のライフポイントがみるみる減って行き、カウンターは2400を示した。
 「ロクク、お前はデュエルを楽しいと思ったことは無いのか」
 星屑使いが奇術師から目を離さずにロククに声をかける。
 「知らねえなァ」
 「相手の戦術を読み、自分の戦術で攻略法を見つける。そしてその上を行く相手の戦略…。予想もつかないほど、デュエルは面白さを増す」
 「だから知らねえッつってんだろぉ?」
 「フッ、無駄話が好きなのは俺もらしいな」
 「全くだ。それに戦略なら読めているぞォ、そのブラフと手札がな!」
 ロククの台詞に、星屑使いは少し驚くと。笑みを浮かべた。
 「ブラフか…。ロクク……それはどうかな!」
 「何ィ!?」
 「さあー、攻撃は終わった!」
 奇術師が、痛みを抑えながら叫ぶ。
 「フン!それもどうかな、俺のバトルフェイズはまだ終了してないぜ!」
 「何だと!」
 「奇術師、お前風に言おう!『トラップカード・オープン』!」
 後攻第一ターンから伏せられていた謎の伏せカード。プレイングからはブラフだと二人は予想し疑わなかったそのカードが表になった。
 「《バスター・モード》!!再び進化せよ、《スターダスト・ドラゴン/バスター》!!!」
 再び星龍が琉璃紺の鎧を纏う。舞い散る光の粒が三人の足下の市街に降り注ぐ。
 「二枚目のォ!?」
 「《バスター・モード》だとー!?」
 奇術師とロククが驚愕し叫ぶ。
 「お前達の予想は、恐らくほとんど当たっている。だが、ここだけは読ませる訳にはいかなかった!!」
 「最初から、この展開を狙ってたのか!」
 「行くぞ奇術師、これで本当に終わりだ!スターダストで奇術師にダイレクトアタック!!」
 「くっ!!」
 奇術師が身構える。
 しかし、星龍は攻撃を行わなかった。
 「どうした!スターダスト!?」
 呼びかける星屑使いに対して、スターダストは無言で静止する。星屑使いには今、何が起きているのか理解できなかった。しかしそれは奇術師も同じである。この状況がどういう意味を持つのか。
 二人の耳に重い鐘の音が届く。
 「まさかー、死体マニア…?」
 奇術師の言葉を聞くや否や、星屑使いはロククの方を素早く見る。
 ロククの場で、悪魔を象った振り子の様なモンスターが振り子の先に付いた鐘を鳴らしていた。
 「俺は、《バトルフェーダー》を手札から特殊召喚する」
 「ここで、《バトルフェーダー》だと!」
 星屑使いが驚いた表情を隠せない。
 ロククの召喚したのは《バトルフェーダー》。相手が直接攻撃を宣言した時に特殊召喚でき、バトルフェイズを終了させるという効果を持ったモンスターだ。勿論、星龍の効果でこの効果を無効には出来るが今はそれがあまり意味を為さない。星龍が無効にするということは、星龍をリリースしてターンの終わりまで墓地に置くと言うこと。無論それは、攻撃の中断を意味する。
 それよりも何より、星屑使いが驚いたのはロククの行動だ。まさか奇術師を庇うとは思って無かった。ロククには奇術師を庇う余裕など無いはずだ。自分の場もガラ空きなのだから、もし、生け贄やコスト、シンクロのレベル調整要因が欲しいのならば、自分への直接攻撃の時に使えばいい話だ。それを他人の為に使うなんてどうかしているとしか言いようが無い。それともロククには奇術師を庇うことで何かメリットがあるのだろうか。そんなもの、検討もつかない。
 …しかし、どんなモンスターが来ても大丈夫だ。
 「俺は、カードを一枚伏せてターンエンド」
 …来た!
 ロククと奇術師は確信していた。星屑使いの今回の伏せカードは十中八九《神の警告》で間違いないと見ていいだろう。

70-1


 「オレのターン、………ドロー!!!」
 カードを引いた瞬間奇術師の表情が厳しいものへと豹変した。手も足も使わずに何かを押し殺そうとしているような険しい顔をしている。しばらくして険しい表情が解けた後、目を閉じる。深く吸う息から、全身の力が抜けたのが見て取れた。ドローカードの確認もしないまま、右手を降ろす。
 「どうした」
 不審に思った星屑使いが尋ねる。
 「礼は言わないぜ……ロクク」
 少しして、奇術師の表情は嵐が過ぎたように穏やかになった。奇術師が初めてロククの名を読んだ。
 「オレは、このデュエルをサレンダーする」
 「…!」
 「何ィ!?」
 突然の宣言だった。再びディスクをゆっくりと構えると、ドローカードを持ったまま、右手をデッキの上に置く。
 『投了』の合図だった。
 「どーやら、オレのタイムリミットが来たよう…だ」
 「まさか…」
 サレンダーを感知した奇術師のディスクが起動音と光を失い、ライフポイントの表示も静かに消える。
 「ハコに言われたんだよ。オレが明日の光を浴びるまで、生きてはいないだろーってな」
 奇術師に『トラッシュ』特有の寿命が来ていた。
 星屑使いとロククは黙って見ているしか無かった。かける言葉が、見つからなかった。
 「アバヨ、オレは二歩先を行くぜ」
 その言葉を最後にして奇術師は言葉を発しなくなった。糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちるとうつ伏せになったまま動かなくなった。
 長い沈黙。
 デュエルの時には忘れていた風の冷たさや、自分達以外に生き物の存在しない街の無音が感覚を満たしていく。
月の位置から、夜明けが近い事が判る。
 月を見上げた星屑使いの視界が歪む。
 「泣いているのかァ?」
 ロククが、震えた声で言った。
 星屑使いは、上を向いたまま目を閉じる。ロククの表情は顔を見ずとも判る。
 「お前のターンだ」
 瞼の裏側が熱い。
 「俺のターン、…ドロォー!」
 星屑使いはロククの戦略を考えていた。星屑使いの場には星龍と竜騎士、先ほど伏せたのはロククや奇術師の予想した通り、《神の警告》だ。対するロククの場にモンスターは無し。伏せカードが二枚と手札が三枚、そして恐らくロククの手札には《大嵐》と《ブラック・ホール》が存在する。ロククはどちらから撃ってくるだろうか。
ロククは考えていた。ロククの手札には間違いなく《ブラック・ホール》と《大嵐》の二枚が存在していた。どちらから撃つべきだろうか。星屑使いの伏せは《神の警告》と見て間違いない。
 「伏せカード発動!《ブラック・ホール》を発動」
 ロククの読みではこれは無効にされない。次の《大嵐》があると判っているからだ。
 星屑使いは、伏せカードの中に《ブラック・ホール》があることは予想していなかった。しかし、読み通り《ブラック・ホール》から撃ってきた。
 「無効にはしない」
 黒い渦が二人の間に出現し、星屑使いの星龍と竜騎士、ロククの場の振り子を飲み込んだ。、竜騎士と振り子は消え、星龍も琉璃紺の鎧を失った。
 「墓地から《スターダスト・ドラゴン》復活!」
 「《大嵐》発動!」
 星屑使いの予想通りの展開。
 「スターダストの効果で無効にする!」
 これで星屑使いの場は、《神の警告》一枚。
 「《リビングデッドの呼び声》発動!対象はァ《レアル・ジェネクス・クロキシアン》!」
 ロククはこのカードが無効にされることは無いと考える。
 「……なにも無い」
 「復活せよォ、《レアル・ジェネクス・クロキシアン》!」
 漆黒の鉄道兵器が再び黒煙を噴き上げ現れる。
 この次の行動は既に読まれていると、ロククは考える。
 星屑使いはこの蘇生が何の意味を持つか、ここに来てはっきりと理解していた。次が《神の警告》を撃つタイミングだ。
 星屑使いが鉄道兵器の蘇生を許した理由は、エクストラデッキにある。星屑使いのエクストラデッキには《オリエント・ドラゴン》が一枚ある。このカードはシンクロ召喚成功時に、相手のシンクロモンスター一体をゲームから除外する。ロククの蘇生した《レアル・ジェネクス・クロキシアン》はシンクロモンスター、除去は容易だ。そしてこのカードはレベル6、つまり《ドラグニティ‐ドゥクス》一枚から簡単に召喚することが出来る。トドのつまり、《龍の渓谷》がある今は次のターンに何を引こうとも《ドラグニティ‐ドゥクス》に取りかえることができ、《オリエント・ドラゴン》の召喚を確実なものとする。
 そして、ロククの戦術は墓地からの蘇生を多用する。今回の鉄道兵器も墓地から蘇生した。今、蘇生を見逃すことで次のターンに除外し、一気に墓地蘇生の戦術を阻害することが出来る。そして、星屑使いのライフポイントは未だに8000と余裕がある。《神の警告》の発動の為に2000ライフを払ったとしても、《レアル・ジェネクス・クロキシアン》の一撃程度は平気な数値だ。
 そして、ロククの次なる手は恐らく《ダーク・アームド・ドラゴン》だ。これは、通す訳にはいかない。《神の警告》を使う必要があるだろう。
 「現れろ、《ダーク・アームド・ドラゴン》!」
 …やはり。
 体中に刃の付いた巨大な恐竜のような黒色のドラゴンが姿を顕わす。
 ロククの予想通りなら、この特殊召喚は通らない。
 このモンスターは墓地に闇属性モンスターが三体だけの場合に手札から特殊召喚することができる。そして、墓地の闇属性モンスターを一枚除外する度に相手の場のカードを一枚破壊する強力なモンスターだ。今まで墓地には闇属性モンスターが四体存在した。しかし先刻の《リビングデッドの呼び声》での蘇生で墓地の闇属性モンスターを蘇生し、三体に合わせた。
 「《神の警告》発動!」
 ドラゴンが消滅し、カードの発動の代償として星屑使いのライフポイントが減っていく。最終的に6000の値を表示した。ここまではロククの予想通りであり、星屑使いの考えの中である。
 「《貪欲な壺》発動!」
 「…!」
 星屑使いの想像を抜けた。残り一枚の手札になる、ここまでは想像出来た。しかし、手札一枚と場には《レアル・ジェネクス・クロキシアン》が一体。これで6000ダメージを叩き出すのは不可能というのが星屑使いの考えだった。しかし、このカードの発動でロククの手札の枚数が変わる。
 「墓地のモンスター全てを戻して二枚のカードをドローする!」
 ロククの手札が二枚。何の情報も無いあの手札は危険すぎる。
 「クロキシアンでェ、直接攻撃!」
 動かなかった!?
 勢いよく煙を上げると、鉄道兵器は巨体には似合わぬ速度で突進する。星屑使いは衝撃を和らげようと構えるが、鉄道兵器の速度が速くまともに激突する。後方に体が飛び、端の金網に背中が叩きつけられる。直ぐに金網に跳ね返された星屑使いの体が地に倒れこむ。体の節々が限界ダメージを超えたのを星屑使いは感じ取った。カウンターの数値が3500まで減少した。
 「カードを一枚伏せターンエンド」
 ロククがターンを終了した。痛みを抑えながら起き上がり、ロククへ向き直る。
 「スターダスト復活…」
 ディスクからの光が星龍へと変わる。
 痛みの引く様子は無い。時間が経てば経つだけ意識が飛びそうになる。
 大丈夫、この手札ならこのターンで決着だ。
 終わったら何をしようか。
 寿命が来るまで世界を歩き回るか。
 色んな所を見て、デュエルをして。
 そうだ、新しいデッキを組むのもいいな。
 「星屑使い!!!」
 ロククの罵声で意識が戻る。状況を理解すると立ち上がり、ロククを見据える。そうして初めて、自分の視界がぼやけていることに気付く。
 「ドロー…手札一枚と引き換えに《龍の渓谷》の効果で…」
 「速攻魔法、《サイクロン》発動!《龍の渓谷》を破壊」
 「くっ…よりによって、ここでか」
 フィールド魔法が破壊されたことにより、効果を発動できずに手札を一枚捨てただけの処理と終わる。
 星龍と鉄道兵器の攻撃力は同じ。こちらから相打ちに取るのはあまり良い策とは言えない。
 「ターン…終了」
 「ドロー!」
 満身創痍の星屑使いを前にして、ロククの気迫は衰えない。手加減という発想すら頭の中には無いだろう。
 「手札から《ジェネクス・コントローラー》を召喚し、バトルフェイズ!」
 卵色の四角く小さいロボットが現れ、ロククの足下に座る。
 「クロキシアンをォ、スターダストと相打ちに取る。アタック!」
 鉄道兵器が星龍を目がけて突進する。突進の開始と同時に星龍の口から放たれた光の柱が鉄道兵器を襲う。光の柱を真正面から受け、鉄道兵器の突進速度が著しく低下する。しかし、ゆっくりながらも少しづつ星龍への距離を詰める。距離を詰める度、柱を受ける鉄道兵器の重装甲がひび割れる。鉄道巨兵があと一歩の所まで星龍に迫った。星龍が光を放つのを止め、拳を握り鉄道兵器へ放った。鉄道兵器はその攻撃を肩の装甲の一枚で受けると拳の触れた部分を勢いよく切り離す。装甲を切り離した衝撃で星龍の拳を受け流し、その衝撃を利用して前に出た鉄道兵器は星龍との距離を限りなく迫った。間髪入れず鉄道兵器の巨大な腕が振り下ろされ、星龍が地に伏す。鉄道兵器は腕で星龍を抑えるけると、両手からゼロ距離で光線を放った。二体の実体化したモンスターが爆発し、互いのコントローラーが各々後に吹っ飛ぶ。
 「《ジェネクス・コントローラー》で攻撃!!!」
 地に叩きつけられる前にロククが叫ぶ。ロボットが星屑使いを目がけて走る。距離を詰めたロボットは星屑使いに触れると自らの体内に蓄えていた電気を放出した。激痛が体中を駆け、四肢が引きちぎられる様な感覚を星屑使いは覚えた。ダメージを受け、カウンターが2100を示す。
 「チッ、ターンエンド」
 実体化したモンスター同士の爆発で受けたダメージはロククも相当なもので、立ち上がる足が震えている。
 「ドロー…」
 声を張り上げようとするが、声は響かず力無く零れる。
 負けらけない。負けたくない。
 勝ちたい。
 いや、…勝つ!
 勝つという執念が星屑使いの脳内を埋め尽くした。勝利への純粋な渇望が、力を無くした体の中でただ一点に力を与える。星屑使いの瞳には炎が渦巻く様な闘志の色が見て取れた。その瞳で、引き当てたカードを見据える。
 《聖なるバリア‐ミラーフォース‐》、攻撃モンスターを全て破壊する最上級トラップカードだ。
 「カードを…一枚伏せ、…ターン、エンド」
 体が何とか言うことを聞いた。次のターン動けるかは判らないが、動くしかない。でなければ、次のターンで逆転しなければこのカードを引いた意味が無い。そう考えながらしかし苦しさは増す一方で、収まる気配が無い。
 「ド…ロー!」
 ロククも同じようだ。
 …勝負は次のターン。次のドローにかかっている。
 「……」
 ロククが手札を見て沈黙する。
 一体何を引いたというのだろうか。
 「魔法発動!!…《死者蘇生》!!」
 …そんな…!
 ロククは一体何を蘇生するのだろうか。
 《レアル・ジェネクス・クロキシアン》だろうか、しかしそれなら問題ない。
 俺の墓地の《スターダスト・ドラゴン》だろうか、しかしバリアが発動したらどうする。スターダストの効果を使えば次は俺のフィールドに舞い戻る。そんなことはロククも判っている。
 「蘇生、するのは、星屑…使い…お前の墓地の《バスター・ビースト》!」
 …《バスター・ビースト》!?
 盾と槌を持ち、土色の鎧を来た薄灰色の狼の戦士がロククの場に復活する。
 「オレはァッ…!!」
 星屑使いは何が起こるか全く想像がつかなかった。星屑使いに出来るのはただただロククの行動を見入ることだけだ。
 ただ、『相手の墓地からモンスターを蘇生』というのはロククの今までのプレイングには存在しなかった。
 …ロククのデュエルが…いや、ロククが変わった。
 「《ジェネクス・コントローラー》と《バスター・ビースト》でシンクロ召喚!!」
 快音の後、閃光。
 「この闘いに決着をつけろ!…《A・ジェネクス・トライフォース》!!!」
 白と灰色の人型ロボットが現れる。赤と青のポイントパーツが光り、重い起動音の後にゆっくりと星屑使いを見据えた。その右腕の三角柱形のサイコガンにも似た兵器には三種類の銃口が光る。

70-2

 「《A・ジェネクス・トライフォース》か……」
 星屑使いは全てを悟り、両手を降ろす。
 「最後に一つ、訊いてもいいか?」
 「ん?」
 「何故あの時、奇術師に《バトルフェーダー》を使ったんだ?その後のお前の戦略には関係なかっただろ」
 星屑使いの質問を豆鉄砲を食らったような顔で聞くと、ロククは急に笑いだした。
 「フン、嫌なら答えずともいいがな」
 「お前の予想の付かないデュエルをしてみたくなったんだよ。…『予想もつかないほど、デュエルは面白さを増す』んだろゥ?」
 ロククの表情は今までで一番穏やかだった。
 「行くぞ、…ラストアタックだ!」
 「来いロクク!貴様のカードで俺の首を掻き切れ!!」
 星屑使いが目を閉じ、実体化した人型ロボットが銃口を星屑使いに向ける。銃口の一つが光ると星屑使いを目がけて光線が走った。光線は見事に星屑使いの体の中心を射抜いた。不思議と星屑使いに痛みは無く、達成感が泡のように湧きあがっては消えて行く感覚を覚えていた。
 《A・ジェネクス・トライフォース》は三つの効果を持ち、シンクロ時の素材に使ったモンスターによって効果が決まる。今回素材として利用した《バスター・ビースト》は地属性。よって発動する効果は『このカードの攻撃に対して魔法及びトラップの発動を封じる』。つまり、今の攻撃に対して星屑使いはセットしたトラップを発動することが出来ない。
 ロククのデッキにレベル4の地属性モンスターは存在しない。奇術師のデッキにも同じことが言える。だからこの闘いの、この状況、このタイミングに《A・ジェネクス・トライフォース》が登場するなどとは星屑使いは微塵も考えはしなかった。しかし一枚、三人のデッキの中で一枚だけレベル4の地属性モンスターが存在していた。ロククのデッキ43枚、奇術師のデッキ43枚、星屑使いのデッキ40枚。126枚の中の一枚が、結果的にロククの勝利へ繋がった。
 迫る光の中で星屑使いは、今回のデュエルは全員が間違いなく全力を尽くしていたと感じていた。しかしそれでいて全員、今まで見せたことの無いプレイングや戦略を仕掛けていた。既視感の少ない、新鮮味の多いデュエルだった。
 …楽しかった。
 星屑使いは今までの中で最も充実した気分だった。そして、まぎれも無く完敗だった。
星 屑使いのライフポイントカウンターが0を表示し、全てのモンスター及びカードの映像、実体化したモンスターが消滅する。
 ライフが0になり、長い電子音が流れる。
 そして、星屑使いは電子音がまだ自分の耳に聞こえていることに疑問を持ち、目を開けた。
 「…生きている…?」
 何故?
 満身創痍で実体化したモンスターの攻撃を受けたんだ。生きていてそう思うのも何だが、命が消えていなければ納得が行かない。考えられる理由は一つだった。
 「まだ、ゆくなよ」
 奇術師が倒れた時と同じ目でロククが言った。
 「ロクク…!何故、モンスターの実体化を止めた!」
 ロククが実体化を抑え、通常のバーチャルソリッドフィール分のダメージしか受けていなかったのだ。理由は解からないが、ロククが手加減したのは事実だ。
 「見ろ、夜があけるぜェ」
 憤る星屑使いを無視し、ロククが背を向け遠くの空を見る。いつの間にか明るくなった遠くの空から太陽が顔を出した。暗さに慣れた所に飛び込んで来た、刺すような眩しさについ目を細める。
 「…ふつくしい」
 星屑使いの口から、そんな言葉が漏れた。
 ロククの背で感動の言葉を聞いていた。次の瞬間、ロククの視界の外で星屑使いの体が地に崩れる。
 「何だよ、本当ォに性格に判ってたんだな…。ぴったりじゃねえかァ」
 ロククは今から丁度24時間前、ハコに『トラッシュ』全員の寿命を聞きに行った。自分と星屑使い、そしてまだ姿を見せない最後の一人の寿命が知りたかった。ハコはロククの要求に首を横に振った。しつこく迫るロククにハコは、ロクク自身の寿命なら教えてくれると言った。条件はハコとデュエルすること。しかしハコは『トラッシュ』の中でもとりわけ体が強い方ではなかった。
 「デュエルの中で私は命を落とすかもしれないから、先に寿命を教えてあげる。…何て名前?」
 ハコの質問に対してロククは、少し間を置いてから答えた。
 「ナナズだ。…知らないか?俺は『星屑使い』のナナズだ」
 「…………ナナズ…。……ナナズは次の夜明け、太陽が完全に姿を現すと同時に命を止めるわ。……聞いてる?ナナズさん?」
 「…あ、ああ。ありがとよォ。…さて、じゃあデュエルと行くかァ!」
 ナナズの寿命を知ったロククは、ハコとのデュエルが終わると直ぐにナナズに決闘状を叩きつけた。その日の晩にこの街に来い、と。

 「…さて、とりあえず…ナナズと奇術師を弔ってやらなきゃな」
 ナズナの腕を自分の肩に回し、腰を持って支える。そのまま奇術師の元へゆっくりと歩いてゆき、同じようにして奇術師を支える。立ち上がると、決してガタイの良くないロククの体に男二人の体重がのしかかる。
 「そうだった…。俺も満身創痍だったァ…」
 ふらつきながら建物の下へ降りる非常用階段を目指して、屋上の端と歩く。奇術師の体がズレ落ちそうになり、咄嗟に担ぎ直す。すると奇術師が左手に握っていた手札が手を離れ、足下に散らばった。
 「ふぁー、もうしょうがねェな。後で取りに来てやるから文句言うなよ」
 欠伸をしながらロククは再び歩き出す。端まで辿り着き、建物の外壁に設置された吹き抜けの階段を降り始めると、朝一番の強い風に吹かれてまた体制を崩す。
 「瓦礫葬だが、勘弁して…くれよ…」
疲れとダメージの蓄積された体で二人を運ぶのは想像以上に厳しいものだった。一人づつ運ぼうかとも考えたが、二往復する元気はとてもじゃないが残って無い。
 「何か、眠くなってきたなァ…徹夜だからか……な……?」
屋上に残した奇術師の手札が風に飛ばされ、四枚の通常モンスターが宙を舞う。階段を下りると、ロククは疲労でもう動けなかった。二人を降ろし、眠る二人の背中を瓦礫に預ける。ロククも疲れ果て、気付くと瓦礫を背にして座っていた。ロククはゆっくりと目を閉じると、随分と久しぶりな三人での睡眠時間に微笑んだ。
 「もう一度、お前らとデュエ………」
 朝陽が昇り、暖かく三人を照らした。奇術師の右手にはまだ、一枚のカードが握られたままだ。


Materialize.70(fin) 『Psychic In Night』
アルケミックカウンター
製作者:ロクク
登場人物紹介

ななず

Author:ななず
仕事のためブログから蒸発。
「ブログはアルケミにまかせた!」
★★☆☆
所持デッキ
★★☆☆
山口で生まれ、岡山で育ち、
現在は京都在住。
ガチデッキに勝てるデッキを目指すファンデッカーです。
不定期更新ですが、デッキレシピとか載せていきます。
少しでも皆さんの遊戯王ライフに関われれば幸いです。
ツイッター @nazuna70
『第3回ななず杯』優勝

虹色アルケミアイコン
Author:アルケミ
ななず失踪のため、現行ではこのブログの最高責任者。
「ふざけるんじゃないわよ、たまには顔みせなさい」
OCGでの正式名称は《アルケミック・マジシャン》。
このブログの紅一点であり、台風の目
気に入らないことは持ち前のフラスコで一撃粉砕!
ビューティフルでキュートなスペシャルガール。
ツイッター @arukemi_bot

PINアイコン2
Guest:PIN
岡山県民。
高校時代のななずを遊戯王の世界に引きずり込んだ人物。
面白くて強いデッキを数多く持つ。
ブログにゲスト登場する。

ロククアイコン2
Guest:ロクク
岡山県民。
ブログ『ゴーイングマイゥェイ』の管理人。
ななずとは中学時代から、PINとは高校時代からの友人。
ロボとゾンビをこよなく愛するクレイジー野郎。
アクセスカウンターを作った人。
PINと同じく、ゲスト登場する。

―――――――――――――
以下、滅多に登場しないが
時々名前が出る身内決闘者。


Guest:もじき
岡山生まれ、東京在住。
ロククの弟。
機械族モンスターを華麗に操る。

Guest:イザナ
滋賀県民。
ななずの大学時代からの友人。
ホルスを愛する決闘者。

ひきだしアイコン
Guest:ひきだし
岐阜県民。
ブログ『フラッシュありますか?』の管理人。
ななずの大学時代からの友人。
ロマンコンボとワンキルの両極を好んでデッキを組みたがる。
最近の主力は↓
【命削りAFKozmo】
口は悪いが根はいいやつ。
…のはず。
『第4回ななず杯』優勝

Guest:ARIA
岡山県民。
ななずの大学時代の先輩。
純テーマを好んで使う。
何かにつけて運の強い人。

Guest:たまちゃん
京都在住。
ななずの大学時代の先輩。
ARIAと同じく純テーマを好む。
『ななず杯』を2連覇した強者。
『第1回ななず杯』優勝
『第2回ななず杯』優勝

Guest:はっしー
愛知在住。
ななずの大学時代の後輩。
OCGからは離れがちだが身内大会を開けば参加してくれる優しい人柄。
現在は真竜を組み始めたとか…。

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